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木村誠さんの社内レクチャー「アニメ業界が抱える問題と解決策」をレポート!

海外需要開拓支援機構の社内勉強会にご登壇いただいた株式会社BLUE RIGHTS創業者の木村誠さんのレクチャーの内容を、一部抜粋してご紹介します。

いまや日本産のアニメは世界中でそのファンが増殖しており、ポジティブな情報を耳にする機会も多くなってきました。業界レポートによれば、アニメの世界市場は2023年には約3兆円規模にまで成長しており、更に2030年には約8兆円規模にまで拡大するとの試算もあります。その一方で業界が抱える様々な課題もあり、構造改革が求められるシビアな実情も見えてきています。テレビ局から制作会社に移り、『呪術廻戦』『進撃の巨人』『チェンソーマン』などの人気の話題作を多数プロデュースし、出資側と制作プロダクション側の両方からアニメ制作に携わってきた実績を持ち、現在は株式会社BLUE RIGHTSの創業者である木村誠さんに、日本アニメ産業の現状と今後についてお話をお聞きしました。

=== 木村誠 プロフィール ==============
2007年~ フジテレビの深夜アニメ枠「ノイタミナ」にてプロデューサーを担当
2017年~ ツインエンジンにてプロデューサーを担当
2018年~ MAPPAにてアニメプロデューサーの他、ファイナンス、
     ライセンスビジネス等をはじめとしたライツ事業全般を統括
2024年~ BLUE RIGHTS創業
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世界配信によって日本アニメの需要が急速に高まっている

会員数2億人超のNETFLIX様はアニメコンテンツにもかなり注力していますし、日本では展開していないですがアニメ配信プラットフォームのクランチロール様も登録者数が1億人を超えています。日本と同時に世界でアニメを見る環境がどんどん成熟してきていて、市場もどんどん広がり需要も高まっているので、それに比例してアニメの制作費も高騰している傾向にあります。10年前から比べると平均して2~3倍くらいにはなっているような気がします。日本アニメも、ハリウッドのように初めから世界市場を視野に入れて予算組みして作っていく未来が、もうすぐそこに来ていると思います。『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』や『スパイダーマン:スパイダーバース』みたいな目標をもった作り方が日本のセルアニメでもできると素敵だなと思っています。

作り手が不足している日本アニメ業界

日本アニメの市場がどんどん拡大して、一見よい未来を描けるように感じますが、大きな問題もあります。それは日本アニメの作り手不足です。日本アニメの需要はますます高まっているのですが、供給力がそれに追いついていません。シリーズや映画の新作を作ろうとしても作り手不足の問題で4、5年先まで作れないのが現実です。日本のアニメ業界に新規で入ってくる人は大体数百人で、例えばアニメ関連の専門学校を卒業した学生の就職率は他の業種と比較してとても高い一方で、離職率も高いという実態があります。その要因として考えられるのは、権利の構造にあると思っています。アニメ業界のスキームはかなり複雑で、様々な権利が入り組んだ座組みが組まれています。基本的にビジネス的な座組みはほとんど「前例」を踏襲して維持されがちですが、アニメーター不足という業界全体の課題に向き合って、権利の構造も時代に合わせてもっと変えていく必要があるのではないかと思っています。実際にアニメを制作している立場の権利はもう少し優遇されるべきではないか、というのがメーカー、プロダクション両方の立場を経験したうえで僕が思っていることです。基本的にアニメに関わるプレイヤーは、プロダクション、メーカー、プラットフォーム等いろいろな立場がありますが、中にいるプレイヤーはそれぞれの立場でみんなピュアに良い作品を作りたい、良い座組みを作りたいと考えています。アニメのプレイヤーはかなり限られているので、今はそれぞれの立場のプレイヤーの方々とそういった課題に対してどんな解決の糸口があるかを、建設的に話し合って解決策を練りたいと思っています。10年以上先を見て、まず作り手を増やして、良い作品をどんどん世の中に出していく、という目的は全プレイヤーで一致しているはずです。みんなで良きシステムを模索して、今年宮崎駿さんがアカデミー賞を受賞したように、将来的にそういう賞をとれたら素敵だなと思います。

MAPPAが挑んだ構造改革

フジテレビでアニメプロデュースを担当していたときは、いわゆる製作委員会側からアニメビジネスに携わってきました。放送局の立場で、それぞれ得意なビジネス領域を持つ外部の会社様がお金を出し合って集まる製作委員会を組成して、アニメの企画開発をしながらマネタイズするライツビジネスをしていました。その後ご縁があって、MAPPAに参加することになり、それまで培ってきた企画開発やライツビジネスのノウハウを制作会社の中で実践してみようというチャレンジをしました。僕が移籍した当時は、制作会社から製作委員会の幹事社(TV局、映画配給会社、ビデオメーカー等)に移籍する人はいましたが、その逆はいなかったため珍しい存在だったかもしれません。

制作会社は、基本的には製作委員会からアニメ制作を受注して、そこで粗利を出すことがメインビジネスです。そのため、作品がヒットするか否かでは大きく収支は変わりません。もちろん受託をし続けられることは、クリエイティブのチャレンジができるという意味では恵まれているのですが、一方でその座組みだと自転車操業から脱却することはなかなか難しいのではないかと思います。コロナのような予期せぬトラブルが起きて放送時期が延期になったりすると、決められた制作費の中で作品を作ることができなくなり、企業としては大きなリスクになります。そんな状況で新規事業を推進して企業として成長していくのはなかなか難しいと思います。MAPPAではそういった環境を変えるためのアプローチをいくつか実施して、成長戦略を描きました。一つ目が、出資をして作品の権利を得ること、二つ目がヒットを出すこと、三つめがヒット作の周辺にある事業(商品化やイベント催事など)を自分たちでやることでした。「チェンソーマン」というタイトルではそのすべてをやろうという意気込みで100%出資するという形にトライしました。この構造改革をすることでプロダクションが企業として強度を持ち、業界が発展していくことに貢献することを意図していました。自分たちで作り、届け、売る形ですね。色々な課題は残りましたが、収益的には大きな成功を得られたので、次のアップデートに繋げていけたらと考えています。

※木村さん(左)と今回の企画を担当した当機構 事業開発・連携推進グループ 部長 山下隆生(右)

ジャパンコンテンツファクトリーが提供したプロダクションのファイナンスの課題解決

制作会社が権利をもつ上では課題があります。それは、上述した自転車操業の状態だと、自社で出資する資金がありません。もちろん銀行の融資などの手段はありますが、シリーズも映画もアニメを一本作るのに数億円かかるためそんな簡単には借りられません。数年前からプリセールス(企画の強度と納品の信用をベースに制作前に番組販売契約を結ぶこと)がアニメビジネスの一般的な回収手段になりました。2018年(ちょうど僕がMAPPAに移籍した年)に立ち上がったジャパンコンテンツファクトリー(以下JCF)は、クールジャパン機構が、日本コンテンツの海外展開を支援するために作ったファンドで、制作会社へのブリッジファイナンス(プリセールス契約の存在や制作完遂能力などを前提としてプロダクションに制作費を一定期間提供すること)の機能を持っていました。僕はたまたまご縁があって、そのブリッジファイナンスという手段を得て100%出資の座組みを作ることが出来ましたが、現状プロダクションサイドにはそういったファイナンスに必要とされる知見を持っている人が少なく、また、大きな会社の子会社のプロダクションだとそもそも自社でファイナンスをする必要がないため、6年前ではJCFの仕組みが十分スケールしていかなかったような気がします。ただ、昨今のチェンソーマンの実績などもあり、JCFのようなブリッジファイナンスへのニーズは今後高まっていくのではないかと思います。いま創業したBLUE RIGHTSでは、そういったプロダクションやアニメーターの座組み的な問題解決をするための仕組みづくりと事業開発のお手伝いをしていこうと考えています。まだ創業して間もないので何か一緒に協力してやっていける方がいらっしゃれば、ぜひ連携していきたいと思います。そうやって集まった仲間と座組みを作った上で良い作品(目指せアカデミー賞!)を作れたらプロデューサーとしては最高です。

株式会社BLUE RIGHTS
https://twitter.com/Kimu777

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