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女性に寄り添うファッションブランド M.M.LaFleur(後編)

大橋秀平
2020/02/19 投資先情報

参考:女性に寄り添うファッションブランド M.M.LaFleur 前編
(前編を読まれた方からM.M. LaFleurは何と発音するのか、というコメントがありました。「エムエム ラフルアー」と発音します。)

後編は、M.M. LaFleurへの投資の狙い(=クールジャパンアングル)についてお話させて頂きます。

シンプルに見えながらもディテールにこだわったデザインと、ストレッチが効いている・しわになりにくい・洗濯ができるといった高機能性テキスタイル(生地等)、この組み合わせがMMの特徴です。デザイン要素はもちろん過去にコレクションに参加されていた中村チーフクリエイティブオフィサー(CCO)を中心としたデザインチームの能力によるところが大きいですが、もう一つの要素、テキスタイルの機能性という点において、実は裏でクールジャパンが大活躍しています。

今回は、そのMMの服に取り入れられたクールジャパンなテキスタイルについて中心にお話できればと思いますが、まずはその前に参考情報として日本国内の繊維産業の概況について簡単に触れたいと思います。

かつて日本の一大産業であった繊維産業ですが、21世紀の現在では減少基調にあります。実際、1991年に12兆円弱あった製造品出荷額は2015年に1/4の約3兆円にまで減少したというデータもあります。また事業所数に目を向けてみても、1991年との比較でこちらも1/4まで減少しています。もし、製造品出荷額や事業者数の減少が全て日本の繊維企業が作る製品に競争力がなくなったことを要因とするのであれば、資本主義・経済原理からやむをえないことだと思います。しかし、現実は必ずしもそういうわけではありません。日本の国産テキスタイルは海外で今もなお高い評価を受けているのです。事実、日本国内のメーカーが製造したテキスタイルがルイ・ヴィトンやシャネルなどの、いわゆるメゾンと呼ばれる高級ブランドの服に利用されることがあります。しかし、メゾンがその事実を開示することは基本的にありません。関税等のルール上、服の生産国(=縫製等、服の価値に実質的変更がおこなわれた場所)は記載する必要がありますが、テキスタイル自体の生産国を記載する必要はないからです。ブランド戦略上も、あえて日本のテキスタイルを使っていることを明記する意味がなかったとも考えられます。

2013年の設立当初からクールジャパン機構では、高品質テキスタイルを生産する国内メーカー様の海外における認知率が低い状況をなんとかして改善していきたいと考えていました。(余談ですが、国産デニムと和を取り入れたブランディングで成長している45Rにも2017年に出資をさせて頂きました。こちらは国産デニムの品質の高さ・風合いの良さ等を広く世界のお客様に知ってもらうことを狙いとしています。)デザインはひと目で違いが分かりますが、テキスタイルそのものの良さは実際に触ってみたり着てみたりしないと分からない部分です。MMがEコマースだけでなく、ショールームやMM to Goといったお客様との接点を大事にしているのも、MMの服の良さ、すなわちぱっと見では分からないディテールの部分のこだわりやテキスタイルの質感・機能性をお客様にわかってもらいやすくするためです。

投資検討の過程でMMのショールームで働くスタイリストやMMのお客様に「商品と日本のテキスタイル」についてインタビューをしました。ショールームのスタイリストはもちろん、ほぼ全てのお客様がMMの服に日本のテキスタイルが使われていることを知っていました。ショールームのスタイリストによる接客、ウェブサイトの商品説明ページ・商品タグで、MMの服に日本のテキスタイルが使用されていることについて、しっかりと発信している結果だと感じました。またMMの服を知らない人に対して実施したグループインタビューでは、MMの服の品質を高く評価する声が相次ぎました。同じ黒のドレスでも、競合他社の商品とは品質の面で大きくリードしているという調査結果も出ました。

   (写真:商品説明ページで日本のテキスタイルを使っていることを明記)

MMのベストセラー商品であるトップスに使われているテキスタイルは、日本国産の合成繊維生地です。トップスの売上増加に伴い、当然ながらそのテキスタイルの取扱量も年々増えていると聞いています。規模が大きく成長性も高い、なおかつ他国の市場への影響力もある米国市場でMMブランドを伸ばしていくことで、結果として日本のテキスタイルの品質のPRや国内テキスタイルメーカー様の海外市場開拓につながる。本件が、そういったモデルケースになるものと確信しています。

ベストセラーのトップス(上掲写真)に使われているテキスタイル以外にも、たくさんの国産テキスタイルがMMの服には利用されています。海外製のテキスタイルと比較して、「機能性の部分では国産のテキスタイルに優位性がある」と中村CCOはおっしゃいます。洗濯可能なテキスタイルや抗菌・防臭効果をもったテキスタイル等の開発は、日本の高温多湿という必ずしも働く人にとって最高の環境とは言えない状況を改善させるため、これまでたくさんのテキスタイルメーカー様が知恵をしぼり、一生懸命テキスタイルの機能を改善してきた結果だと思います。

我々クールジャパン機構としても、高い技術力を持つ多くの国産メーカー様のテキスタイルの輸出が増えることで、国産テキスタイルの価値が世界的に高まることを後押しできればと考えています。紳士服やスーツの場合、イギリス製やイタリア製のテキスタイルが使われていることを商品の売り文句にしていることがよくあります。日本のテキスタイルも、それ自体を売りにできるような、そういった状況に早く持っていきたいと考えています。そのための第一歩として、まずは国内のメーカー様が開発したテキスタイルの品質の高さ・高機能性を、M.M. LaFleurというブランドを通じて、海外のお客様にしっかりと伝えていく必要があると考えています。既に複数の国内テキスタイルメーカー様からクールジャパン機構にお問い合わせを頂き、MMにお繋ぎさせて頂いたところもございます。順調に行けば、来年のモデルに採用される国産テキスタイルがあるかもしれないとも聞いております。このような形で今後もクールジャパン機構は、ニューヨーク拠点のMMと国内メーカー様の橋渡し役として、両者を精一杯サポートしていきます。

M.M. LaFleurへの出資について公表させて頂いた後、「MMの服を着てみたいのだけど、日本では買えないのか?」という嬉しいコメントを数多く頂きました。M.M. LaFleurも早ければ2020年中のEコマース日本進出を目指しています。その際は是非一人でも多くの日本のお客様にMMの服を手に取ってもらえたらと思います。

(終わり)

大橋秀平| 投資戦略グループ ヴァイスプレジデント

PwCあらた監査法人およびDeloitte Amsterdamにて会計監査業務に従事した後、2016年12月クールジャパン機構へ入社。M.M.LaFleur、Winc、500 Startups Japan等を担当

慶應義塾大学商学部・同大学院商学研究科修了

参考:クールジャパン機構 投資決定時プレスリリース

出典:経済産業省 「繊維産業の課題と 経済産業省の取組」

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