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中国消費者と酒蔵の「一期一会」を大切に    ―EMW日本酒担当者の挑戦—(後編)

2020/12/14 投資先情報

中国でも有数のワイン卸売事業者である「EMW(イーエムダブリュー)」グループ。そのワインの販売・流通プラットフォームに日本酒をラインナップとして加え、中国消費者に広く届けるためのEMWとクールジャパン機構の挑戦が始まりました。EMW上海拠点で日本酒専門の担当者として奮闘するナイト・フーさんのインタビュー(後編)をお届けします。(内容は2020年11月現在、敬称略)

前編はこちらをご覧ください。

酒蔵のこだわりや銘柄のストーリーを一つひとつ丁寧に

Q. 今年9月に中国各地で開いた日本酒商品説明イベントでの皆さんの反応はいかがでしたか。

地域によっても好みが違う日本酒ですので、上海、広州、北京、成都、重慶、香港で商品説明イベントを開き、日本酒の多様性をアピールしました。試して頂いたのは、現在EMWが扱っている日本を代表する6銘柄の中から、初心者から飲み慣れた方まで受け入れられやすい様々な商品です。

そもそも日本酒だけの商品説明イベントで集客をするというのが珍しいのですが、それぞれ100~200人もの方々にお越し頂きました。私たちは今まで日本酒を取り扱っていた中国の和風居酒屋オーナーを対象に販売をしようとしているわけではありません。ご招待したのは、私たちのネットワークを活かして、これまでEMWがワインを提供していた西洋料理・中華料理のレストランのオーナーや、ホテルのバーのオーナー、ミシュランで星をとったシェフ、インフルエンサーの方々です。実際に飲んで頂くだけでなく、日本酒の基礎知識から始まり、各酒蔵のこだわりや銘柄のストーリーを一つひとつ丁寧にお伝えする場にしました。

皆さんの日本酒を口に含んだ瞬間の反応・表情はワインより良いのではないかと思います。ワインは飲み慣れていって少しずつ美味しいと感じていく方が多いのですが、日本酒は瞬間的に美味しさが分かるようです。これも米を食べる民族性が背景にあるでしょう。皆さん日本酒に非常に興味を持ってくださり、造り方や銘柄の特徴、選び方など様々な質問が飛んできました。あるイベントで、私は気づけば4時間程度ずっと質問に答えていた程です。

なお、これらのイベントはすべてEMWが主催ですので、会場手配・看板の作成も私たちが手配していますし、説明している者もすべてEMWの従業員です。EMWでこれまで高級ワインの市場を作り上げてきたノウハウを活かしています。写真をよく見るとお分かりのように、テイスティングには使い捨てのコップではなく、ワイングラスを利用しています。これもEMWが、日本酒のブランドイメージを作り、お酒の高級ブランド市場で販売をしていくための一つの工夫の表れです。

▲上海での商品説明イベント(2020年9月)
▲上海での商品説明イベント(2020年9月)
▲広州での商品説明イベントとEMWのメンバー(2020年9月)

Q. 酒蔵の想いを背負って日本酒の魅力を中国消費者に伝える仕事と思いますが、酒蔵の方々とはどのようにお話をされているのでしょうか

6銘柄の酒蔵には直接お伺いし、今もスムーズにお話をさせて頂いていると思っています。皆さん元々輸出に対して興味があり、グローバルな志向をお持ちの方々です。一方、お話をするのが難しいのは、日本で人気の銘柄をお持ちで、生産量も消費量も国内市場を軸に考えており、輸出に興味が無い酒蔵の方々です。EMWの戦略としては少しずつ扱う銘柄の幅を広げていきたいのですが、日本語が話せる私でも、中国人というだけでドアを叩いても門前払いを受けることが多いです。

その理由には、中国への輸出には昔から品質管理の面で良い印象がないことや、酒蔵が丹精込めて造った商品を中国できちんと紹介できる人がいるはずがないという思いがあるのでしょう。実際、私たちは日本から特別なコンテナーで商品を運び、冷蔵倉庫も整えて徹底的な品質管理を行っていますし、先ほどからお伝えしている通り営業の現場やイベントでも丁寧に説明するようにしています。ひとえに、中国の日本酒市場と酒蔵との信頼関係がまだ十分ではないのだと思います。

その点から言えば、クールジャパン機構との連携には本当に助けられています。私が「この銘柄に興味がある」とお伝えすると、日本各地の自治体とのネットワークを持つ投資連携・促進グループの方々がすぐに直接酒蔵にコンタクトを取ってくれて、話をする場を設けてくれます。実際に6銘柄の中でも「櫻正宗」や「高清水」はクールジャパン機構にご紹介頂きました。特に新型コロナウイルス感染症の影響で直接酒蔵に出向くこともできない今は本当にありがたいです。

EMWを日本酒に深い愛情を持つ会社にしたい

Q. 中国で日本酒市場を拡大していくために、酒蔵との信頼関係の他に課題となっていることは何でしょうか。

手頃なワインが増えてきた一方で、日本酒は高級品のイメージがあります。消費者は30代以上の収入が安定している方々が中心です。日本酒の関税は中国本土は40%で、小売店舗の仕入れ値は日本の約2倍、販売価格は約3倍を超えてきます。

関税などの影響で価格が高いのは仕方がないことですが、問題は人々の日本酒に関する知識が少ないがために「本当にこのお酒はこの値段の価値があるのか」と疑問に思ってしまうことです。ワインについては知識が増えていますので、高級品でも価値を認めて納得して購入します。これからは日本酒も、高いだけの価値をきちんと説明することが大事でしょう。例えば、使っているお米がどれだけ貴重なのかを説明するだけでも違います。

私たちは、将来的には日本酒もワインと同様に中華料理と合わせて飲まれたり、幅広い価格帯が用意されたりと、すそ野を広げて消費される世界を作ることを目指しています。いずれは、数万円の超高級な日本酒を販売することも考えています。ワインの世界ではそのような高級品がよく取引されています。しかし、このような状態は一夜にしてできるものでは決してありません。まずは、手頃な価格帯で初めて日本酒を口にし、日本酒そのものの味を理解したうえで徐々に高級な日本酒も手に取ってくれるようになります。これまで日本酒が飲まれていなかったようなシーンでの消費のすそ野を広げ、値段が高い日本酒の市場も作り上げていきたいです。

情報発信の方法にも工夫が必要でしょう。若い人たちが良く見る中国の動画専門プラットフォーム「Tik Tok(ティックトック)」でも日本酒に関するプロモーション動画が増えてきたように感じます。EMWでも、中国を代表するSNSの「Weibo(ウェイボー)」で、日本酒に関する知識、酒蔵のこだわり、ストーリーを記事にして発信しています。そのような情報に触れた若い人たちにも、特別な日に日本酒を買って友達と家で飲んでみたいと思ってもらうことが大切だと思います。

▲北京でのペアリング説明会(商品説明イベント) (2020年9月)
上:取り扱う日本酒の説明をするナイトさん
▲中華料理と日本酒のペアリング

Q. 今後の夢・目標について教えてください。

私の一番の夢は日本酒が中国人の日常生活に当たり前のように入り込むことです。日本食だけではなく様々な料理とともに、家でもレストランでも色々なシーンで日本酒が飲まれるようになること。今、日本酒の輸出市場規模はアメリカが1番で中国が2番ですが、中国がアメリカを超える日が必ず来ると信じています。

ただし、私はEMWが日本酒を大量に輸入して、ただ商品として扱い、大量に売ればいいとは全く思っていません。私はEMWを日本酒に深い愛情を持っている会社にしたいと思っています。そのためには酒蔵には必ず直接足を運び、従業員の方々のお顔を見ながら、酒造りの想いを受けとめ、そのまま中国消費者に伝えることが大事になります。EMWの創業者もワイナリーで育ちました。日本酒を造っている方々の考え方や思いを消費者一人ひとりにきちんと届けることを、EMWの従業員全員で大事にしていきたいと考えています。

日本には素晴らしい酒蔵が沢山ありますが、中国の人たちに一番伝えたいのは、どんな酒蔵も非常に繊細なところまでこだわって酒造りをしているということ。その細やかな仕事ぶりこそ私が一番感動することなのです。そうしてその酒蔵が生み出した商品の価値を伝え、中国でのファンを増やしたいと思っています。中国消費者と酒蔵の「一期一会」を大切にしたい。ただ売るだけではなく、日本酒という日本の文化を伝える、それが私の仕事であり、これからも目標であり続けると思います。

(終わり)

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