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特別インタビュー企画「CIO × CEO」第三弾 五常・アンド・カンパニー代表執行役 愼 泰俊さん

2023/07/28 投資先情報

賴髙CIOが投資先CEOにインタビューする特別企画「CIO ×(meets) CEO」の第三弾は、五常・アンド・カンパニー代表執行役 愼 泰俊さんです。

五常・アンド・カンパニー株式会社(五常)は2014年に設立、インドを中心とする途上国において、マイクロファイナンス (中小零細事業者向け少額金融サービス)を通じて金融包摂と所得向上に取り組む日本のスタートアップです。五常は、世界に先駆けて日本に誕生した相互扶助の考えに基づく金融制度「五常講」の 5 つ の徳目である「仁義礼知信」を現代の視点から解釈した行動規範(Guiding Principles)を、グループの事業運営に反映し、現在は5か国170万人にまで海外展開を拡大成長させています。
海外需要開拓支援機構(CJF)は2023年、インパクト投資領域で日本の存在感を強め、海外現地における日本の認知度・信頼度向上に貢献する同社に出資しました。
今回、創業者で代表執行役の愼 泰俊さんにインタビューし、五常のビジョンや今後の事業展開についてお話をお聞きしました。
(※内容は2023年6月現在、敬称略)

—-プロフィール———————————————–
愼 泰俊 プロフィール
モルガン・スタンレー・キャピタル、ユニゾン・キャピタルで8年間にわたりPE投資実務に携わった後、2014年に五常・アンド・カンパニーを共同創業し、全社経営、資金調達、投資など全般に従事。現在グループ全体で5カ国170万人の人々に金融サービスを提供している。金融機関で働くかたわら、2007年にLiving in Peaceを設立(2017年に理事長退任)し、マイクロファイナンスの調査・支援、国内の社会的養護下の子どもの支援、国内難民支援を行っている。一般社団法人日本児童相談業務評価機関 理事。一般財団法人五常 代表理事。
朝鮮大学校法律学科、早稲田大学大学院ファイナンス研究科卒。世界経済フォーラムの”Young Global Leader 2018″、Business Insiderの”100 People Transforming Business in Asia 2020″などに選出。
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(五常のグループ会社のマイクロファイナンスの顧客)

誰もが、自分が生きたいように生きていくことができる、それが世界の理想

賴髙
五常・アンド・カンパニーを立ち上げたきっかけとそのビジョンをお聞かせください。


私は「機会の平等」に関心があって大学時代には人権の勉強をしていました。誰がどんな状況であっても、 自分が生きたいように生きていくことができる、それが世界の理想だと思っています。最近ようやく「機会の平等」とは一体何なのか、そのフレームワークが自分の中で明確になり、大きく三つのカテゴリーがあると思っています。
1)自然環境、2)ハードインフラ、3)ソフトインフラです。
最初の自然環境は、綺麗な水、空気、土壌など、人が生きていく場所です。次のハードインフラは、電気・水道・ガスなどに加え、鉄道や道路などの交通網、インターネットなどの通信網などです。最後のソフトインフラは、言い換えると制度インフラで、「システム」や「制度」など、仕組みとして作られた法制度、医療制度、教育制度、金融システムなどです。
この三つが揃ってこそ、人は自分が生きたいように生きていくことができます。この中で、金融に最も強い関心を持ったのは、私自身が奨学金に救われた実体験と金融機関で働いた経験があるからです。全ての社会の不平等や不公平を全部無くすことはできないかもしれませんが、自分に一隅を照らすことができるとしたら、金融サービスの平等に挑戦したいと思いました。世界中の人たちがどこにいっても金融サービスにアクセスできる世の中になれば、私はきっと死ぬときに満足していられると思い、この会社を興しました。創業時から目指しているのは、金融包摂を通じて民間セクターの世界銀行になることです。

賴髙
慎さんの原体験になっている大学院に進学するときのお話にも大変感銘を受けました。


決して裕福な家ではなかったので、大学院への進学が決まった時に学費が都合できませんでした。私の父は人望のある人でしたが、自分たちのコミュニティのためには頭を下げても、家族のためには頭を下げない人でした。西郷隆盛が「児孫に美田を買わず」(子どもや孫に美しい田んぼは買わない)と書いていますが、父も西郷隆盛に似て自分に厳しい人でした。その父が頭を下げて、私の大学院進学の費用として100万円をポンと持ってきてくれたのです。その時は本当に父に助けられました。同時に私は、父の原則を曲げさせてしまい申し訳ないという気持ちでいっぱいでした。

賴髙
お父さまの信念は、五常の理念にも通じるものがあるように感じました。その後、金融やファンドを経験して起業に至った今、金融・ファンドの経験はどのように活かされているのでしょうか。


私が金融機関と投資ファンドで学んだ最も重要なことは、資本構成です。会社という構造において最も大切な土台になる株主構成が、その中にいる人たちの行動に極めて大きな影響を与え、ガバナンスの成否も左右します。資本構成は民主主義社会における選挙制度のようなもので、これらの土台の設計こそが何よりも重要だと実感できたことが大きな学びでした。
マイクロファイナンスの歴史は50年、商業的なマイクロファイナンスの歴史が約30年、会社として順調に成長しているところもあれば、商業的にはうまくいっていても顧客から搾取するようなスキャンダルが起きる会社もあります。株主構成が会社の実態に大きな影響を及ぼすことはよくあります。もちろん「お金儲け」も重要ですが、それだけではこの仕事は顧客を搾取する方向にドライブがかかりやすくなる恐れがあります。
したがって、私は起業当初から株主構成には最大限の注意を払ってきました。資金調達の際には、会社のビジョンやミッションにきちんと合意した上で出資いただけるように、強く意識してきました。
ガバナンスに関しても、弊社はスタートアップとしては極めて珍しい指名委員会等設置会社で、 業務執行取締役は私1名、社外取締役が4名です。いつでも私の首を切れる状態にしてあることで経営が健全になります。これは人類の知恵だと思います。 現地のグループ会社にも同じことをしたかったので、それを実行するために、率先垂範で、まず自分たちに厳しい条件を課しています。

(五常のグループ会社のマイクロファイナンスの顧客)

賴髙
創業9年で展開地域としては5か国、顧客総数は170万人まで広げられています。新規設立、M&A、現地パートナー会社との資本提携など、様々な手法がありますが、今後更なる事業拡大を目指すにはどんな方法をお考えでしょうか。


一からの会社設立は、ミャンマーとスリランカ、そして今仕掛り中のウズベキスタンです。他は既存の会社に出資して子社化しています。金融ビジネスは規制ビジネスですので、ライセンスが必要です。一から会社を作れば、自分たちの思いのままにできますが、時間がかかります。一方で会社を買収、M&Aすれば、時間を短縮できます。インドの買収先企業は準備期間が3年、設立後の社歴が6年で、現在の顧客数が100万人を越えました。準備を始めてから9年で100万人到達というのは、マイクロファイナンスの歴史最速のことです。可能な限り早い時期に、民間セクターの世界銀行を作り上げたいという我々のゴールを考えると、一から立ち上げるのではやはり間に合わない国もありますので、M&Aも積極的に行っています。一方で規模の小さな国であれば一から作ることも検討しています。その際に気を付けなければいけないのは、既存の会社には、その会社の色、組織風土、企業文化があるという点です。企業文化は会社により異なり、五常の文化と同じではありません。パートナーやグループ会社を選ぶ際には、この文化の親和性をとても大事にしています。具体的には顧客に対して何をしたいのか、この目線が揃っているかどうかに注意して相手を見ています。お金儲けも重要なのですが、お金儲けだけの人たちとは恐らくうまくやっていけないと思っています。

採用の際にも同様に、その人が何のために生きているのか、何をしたいのか、何を大切だと思っているのか、を知りたいですし、見るようにしています。

マイクロファイナンスの基本は「仁義礼知信」

賴髙
二宮尊徳の五常講「仁義礼知信」を行動規範にし、日本で発展してきた信用組合にも通底する五常のマイクロファイナンスが世界に広がることを企図して御社への出資を決定しました。慎さんは、二宮尊徳の五常講という考えに、どのようにして思い至ったのでしょうか。


私も最初は皆さんと同じように、二宮金次郎は、小学校にあった薪を背負って本を読んでいる人、という印象が強かったです。実は私も通学時に歩きながらよく本を読んでいたこともあり、小さい頃のあだ名は「金次郎」でした(笑)。実際に私が二宮尊徳に関心を持ったのは、たまたま読んだ内村鑑三の『代表的日本人』に尊徳のことが書かれていたからです。図書館で尊徳の本を読んでいくうちに、どんどん彼を尊敬するようになっていきました。尊徳の考えは、実は今ようやく言われ始めているインパクト投資、インパクトスタートアップ、社会的企業といったものの走りだと思います。彼は次のように書いています。「道徳を忘れた経済は害悪である。ただ、経済を忘れた道徳は寝言だ」と。 この「道徳」が示すものが「仁義礼知信」です。それは金融サービスの基本となるものだと尊徳は考えていました。すなわち、人を思いやる、正しいことをする、正しい振る舞いをする、良いことと悪いことを見分ける、これを通じて人に信頼をされる、というのが五常です。「仁義礼知信」のうち、仁義礼知までは実践すべき徳目と考えられていて、「信」はそれらを達成した結果だと考えられています。彼は信用組合とはそういうものであるべきだと考えていたわけですが、これはマイクロファイナンスにおいても同じだと私は考えました。私たちの基本もこの五常講に他ならないと思い、社名にそのまま「五常」と付けました。“○○カンパニー”というとき、普通は創業者の名前を付けることが多いのですが、理念のもとに集ってきた人たちの会社、価値観のもとに皆が平等である会社という思いから、五常・アンド・カンパニーにしました。

賴髙
五常のこの考え方をパートナー企業、そしてそこで働く人たちにも、行動規範として共感してもらうのは難しかったのではないでしょうか。


少なくともアジア圏においては、「仁義礼知信」はかなり普遍的な価値観ではないでしょうか。儒教は長い中国の歴史の中で大きな変化を経ても、廃れることのなかった普遍性のある思想です。そして、マイクロファイナンスにおけるソーシャル・パフォーマンス管理は、翻ってみるとこの「仁義礼知信」です。「仁」は 顧客をきちんと労わりながら対面しているか、「義」はやるべきでない行為(例えばアグレッシブなセールスなど)を禁じているか、「礼」は顧客に対する態度が悪くないか、「知」は顧客をきちんと審査しているか。お金を借りない方がよい人が借りてしまうと、その人が更に転ぶきっかけになりかねません。私たちには貸しても良いか/貸してはいけないかを適切に判断する責任と能力が求められます。そして「信」は信頼。マイクロクレジットは、クレジット=「信」なしでは成り立ちません。このように、私たちが遵守する顧客保護原則はすべて「仁義礼知信」そのものです。

(五常のグループ会社のマイクロファイナンスの顧客)

展開国数50か国、顧客数1億人という目標達成に向けて

賴髙
五常は、2030年に展開国数50か国、顧客数1億人という数値目標を掲げています。目標達成のロードマップと現在地、そしてチャレンジングな部分についてお聞かせください。


この目標数値を設定した当時、世界銀行は1人当たりの所得が5.5ドル未満を低所得層と定義していました。私たちは5.5ドル未満の所得層が100万人以上いる国を事業のターゲット国と考え、経済成長率等を勘案した上で2030年時点でもその状態にある国は69か国と予測しました。その7割強をカバーすると50か国になります。
その中で金融サービスにアクセスできない人の数は統計的に14億~20億人と予測され、そのうちの5~10%に私たちのサービスを届けることを目標にすると、1億人という数字になりました。1億人までは自分たちが受け持つという気概で目標数値を決めました。
現在の到達度は、展開国5か国で顧客総数170万人、もうすこしで200万人になります。まだ目標展開国数に対して10%、目標顧客数に対して2%という達成度です。コロナの期間はやはり私たちも足踏みした感があり、2年程度遅れてしまった印象です。これまでの5年間は100%成長を遂げてきましたが、今後の5年間は60%成長と仮定すると、5年間で事業規模は約10倍になります。また、この前提で顧客数も10倍となると約2,000万人です。
更にその先の5年間は、マイクロファイナンスセクターの成長率とされる35%の成長と仮定すると、5年間で事業規模は約5倍になります。顧客数は2,000万人の5倍で1億人です。2030年より少し遅れたとしても、可能な限りはやく1億人を達成したいと思っています。
展開国数に関しては、一社ずつ買収する場合もあれば、グローバルにマイクロファイナンスを展開している企業をM&Aしていくことも考えています。まだ私たちが進出できていないアフリカには、マイクロファイナンスを必要とする国が数多く存在していますし、ヨーロッパから既にアフリカに進出している企業もあります。特に私たちの展開国と被らない国で事業実績のある企業をグループごとM&Aできれば、展開国数の目標は十分達成できると考えています。
これを実現するための最大の課題は資金です。マイクロファイナンスは金融事業ですので、成長を続けるにはお金が必要となります。ROE 60%を達成して、利益だけで60%成長を賄うのは流石に現実的ではありません。外部資金を呼び込む必要があり、向こう5年間は資金調達が最重要課題です。そのあと、成長率30%であれば、ROE20~25%をしっかり達成することで、資金課題はなんとかクリアできる範囲だと考えています。
次に大きな課題はリスク管理です。例えば、ミャンマーでクーデターが起きたり、スリランカがデフォルトに陥ったり、私たちが展開しようとしている途上国では、そういった重大な出来事がこれからも頻繁に起こり得ると考えています。世界 50か国の展開となると、毎月大きな出来事が起こっても不思議ではありません。そんななかでもきちんとガバナンスを整備し、管理できる体制を作ることが大切です。
日本にグローバルのヘッドクオーター(HQ)を置いて、日本から世界を見るという体制では流石に管理しきれず、リージョナルHQが確実に必要になります。現実的なビジネス面でも、例えば時差を勘案すると、日本からアジアを見ることはできても、アフリカまで見るのはかなり困難です。リージョンにある程度権限移譲して、きちんと管理する体制を整える必要があり、その体制が正しく機能する仕組み作りが、今後2~3年の大きな課題になると思っています。

(五常のグループ会社のマイクロファイナンスの顧客)

賴髙
慎さんは、ミャンマーのクーデター時にはかなり早い段階から社内で議論し、救援便に乗り、コロナ禍のため10日間の隔離後に現地で活動されたとお聞きしました。


社内でも色々な議論がありました。一部の社外取締役には、行くのは止めないが、行くなら相応の準備をして行くように指示されました。例えば、万が一私が死んだ時に、誰にどう権限を委譲するのかをきちんと書いてから行くようにと言われました。取締役会の承認を得て、ミャンマー行きの飛行機に乗り込みました。

賴髙
社外取締役から厳しくもしっかりとしたアドバイスが出せる仕組みや関係があることが伝わるエピソードですね。さて、五常のホールディングスのメンバーはどのように人選されているのでしょうか。また将来はどんなリーダーシップチームを作ってこうとされているのか、についてお聞かせください。


世界標準のインパクトレポートが作れる最高のチームを目指して


まずどんな時も妥協しなかったのは、社内公用語を英語にしたことです。会社の重要文書は英語しかありません。そうすることで、海外の人も入社しやすい会社にしたかったのです。日本語のような特定の言語グループの人材が7割を超える大多数派になり、社内の多様性が崩れることを懸念しました。生物多様性と同じで、一度多様性が崩れると元に戻すのが難しくなるので、何とかして社内の多様性を保全することに労力を割きました。
そして人が抜けるたびに、良い人材を採用できるように頑張ってきた結果、メンバーのクオリティが上がっていきました。世界中にある、グローバル展開するマイクロファイナンス企業の中でも、五常が一番良いチームになったという自負はあります。五常の経営陣は、 マイクロファイナンス領域では、世界的に著名な人々ばかりです。
次に目指すのは世界中の金融事業者の中でも最も良いチームになること。そしてその次は、金融事業のみならず、金融及びテクノロジー領域でも、さらに良いチームを作ることを意識しながら経営していきます。

賴髙
インパクトレポートを拝見しました。インパクトのパフォーマンスを体系化して可視化すること、そこから課題を抽出してその解決に注力することで、インパクトセクターのリーディングカンパニーを目指しているような印象を受けました。慎さんの思いを聞かせてください。


かつて日本には近江商人の「三方よし」のように、世界に通用する優れた経営理念がありました。これからもそういうものを日本から発信していきたいという思いがあります。五常には幸いにも素晴らしいチームメンバーが揃っています。このチームなら、世界標準のインパクトレポートが作れると思います。実際に私たちの調査研究には、世界銀行の研究者などが関心を持ってくれています。自分たちのインパクト指標を更に精緻化させて、マイクロファイナンスセクターの人々が、五常のインパクトフレームワークを使うようになることを目指しています。

(五常のグループ会社のマイクロファイナンスの顧客)

賴髙
インパクトセクターに更なる投資を呼び込むためにも、インパクト評価を可視化することが大切ですね。五常が世界のインパクト投資に影響を与える存在になっていただけたら、我々にとっても嬉しいことです。我々の出資を通じて五常に何か良い変化やインパクトはありましたでしょうか。


日本の公的な資金をお預かりしていることは、海外展開を積極的にしている弊社にとっては、本当にありがたいことです。途上国においては、 日本ほどに評判の良い先進国はありません。日本の海外支援は、比較的政治色が薄く、現地優先で支援してきた歴史があります。日本の企業で、日本の公的財源から資金を預かっている会社であれば、海外では圧倒的に信頼されます。日本の資金を受けていることがもたらす現地の経営陣に対する安心感は、とても大きいのです。
これは日本の人たちが実は気付いていない極めて大きな資産だと思います。五常がこれからさらに途上国に展開を広げていくにためにも、CJFから資金をいただけたことは、私たちにとって大きな強みになったと感じています。


「五常」を日本の「クール」に

賴髙
相手側に寄り添う日本の資金提供が、五常を通じて、マイクロファイナンスの資金として、現地の方にリスペクトを受けるような存在であることは、我々にとっても嬉しいことです。


例えば禅や「三方良し」や日本食のように、日本文化や歴史、思想などを背景に評価されている価値観があると思います。そしてマンガやアニメなどすでに世界的に高く評価されているもの以外に、過小評価されたままの日本的な価値観がまだまだあります。日本人がずっと以前から当たり前のように持っている「もったいない」という考え方やものの見方は、サステナブルキャピタリズムと言われるようになってきた現在では、日本の良さとして再発見された価値ではないでしょうか。
私は五常の価値観も「クールな日本」を表すものとして世界に通用するかもしれないと考えています。特にZ世代の人たちにとっては、社会的善がクールとみなされ始めています。ただのお金稼ぎは恰好悪いと考える若い世代の人たちも、徐々に社会的な影響力を持ち始めています。今の若い人たちは、五常のビジネスはクールだと感じてくれるのかもしれないと期待しています。
五常の理念は2000年以上前からある価値観に立脚しています。CJFがSDGsの視点から日本に根差した歴史的な価値を推しているということは、大変ありがたいことです。 五常の価値観そのものをまさに日本の「クール」にしていけたらいいと思っています。

※慎代表(右)と当機構の頼高CIO(左)、五常のオフィスにて

賴髙
さて、今後五常が更に成長していくために、CJFや日本の公的セクターは、どんなサポートをしていけばいいでしょうか。


私たちはインドでフィンテックの事業を行っていますので、日本のものをインドでもっと売れるようにしていきたいと思っています。例えば自動車の製造・販売時につけるサプライチェーンファイナンス(チャネルファイナンス)などを活用して、日本企業のインドでの事業展開をお手伝いしたいと考えています。私たちはまだまだ知名度の低いスタートアップですから、CJFから日本の様々な企業をご紹介いただいたり、海外事業の窓口の方々につないでいただけると、大変ありがたいです。

賴髙
CJFは海外にチャレンジする事業社を支援することが目的のひとつですが、五常のようにグローバルに展開するスタートアップは、まだ必ずしも多くはありません。五常はまさに「ボーングローバル」であり、最初から民間版の世界銀行を目指すと標榜されています。世界を目指す若いスタートアップに向けてメッセージをいただけますか。


世界は広くて、本当にすごい人たちがいっぱいいます。それにワクワクしてほしいです。日本は人口動態的にこれから2~30年は厳しい時代になるかもしれません。ただ歴史を振り返れば、日本は厳しい周期でも必ず立ち直ってきた国です。その立ち直るための力を備える意味で、世界で無者修行をしてほしいです。なぜ海外に行く必要があるのかというと、日本は「優しい」国だからです。この国の制度は優しく、競争はそれほど厳しくはありません。私が事業を展開している途上国などは、本当に厳しい競争があります。優しい環境に身を置いて、海外で戦う力を身につけるのは難しいことです。今のうちに厳しいところで勝負をしてみてほしいと思います。そしていずれ日本が直面するであろう苦しい時代に、ちょうど4~50代を迎えるこの人たちが蓄えてきた力で、日本をターンアラウンドしてくれることを願っています。もちろん日本に留まって、人々の痛みを取り除くために頑張るしんがり役を務める人たちもいるでしょう。本当に厳しく大変な状況になった時に、この二者のどちらかになってほしいと思っています。

賴髙
今日の慎さんのお話には大変勇気づけられました。我々もクールジャパンという考え方を若い世代の方々向けに、再定義し、価値観をアップデートしてく必要があると痛感しました。そして日本に古くからある良き価値観を一緒に世界に広げていきましょう。本日はありがとうございました。


(終わり)

聞き手 賴髙画也(よりたかかくや)プロフィール

1994年3月 一橋大学 卒業 
1994年4月 株式会社電通入社 
2007年6月 MITスローン経営大学院卒業(MBA) 
2007年8月 A.T. カーニー株式会社 コンサルタント 
2014年5月 株式会社海外需要開拓支援機構入社 
2018年10月 投資戦略グループ マネージング
ディレクター 兼 投資連携・促進グループ統括部長 
2021年 6月 常務執行役員 兼 最高投資責任者/CIO 
(現任)

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